コンペティションCOMPETITION

金鯱賞

金鯱賞

エンドレス・クッキー

エンドレス・クッキー

原題:Endless Cookie

監督:セス・スクライヴァー、ピーター・スクライヴァー

選考理由

この作品は、個人的な物語と創作するプロセス、カナダ先住民文化への視点を巧みに織り交ぜることで観るものを引き込みます。作品の中心は家族であり、家族を丁寧に描くと同時に、この映画がどのように生み出されていくのかといった制作過程も観客に示します。 「アニメーションがどのように作られるのか」との洞察は、それ自体が物語であるというメタ的な構造を持ちます。それが観客との関係を深め、同時に「意図した物語や構成から外れること」「幸福な偶然」「創造的な逸脱」を受け入れるクリエイターの芸術的な野心を際立たせているのです。 作品の大きな魅力のひとつは、「先住民文化とのつながり」です。「そうした文化がいかに断片的になってしまったのか」という重いテーマに向き合うことで、社会の断絶を映画の中に反映させています。 この濃密なテーマ性は、「シリアスさを内包した不条理なユーモア」との独特のトーンにより巧みにバランスがとられています。独創的なデザインが作品にバランスを与え、重たい問題も観客が受け取りやすく惹きつけられるようなっています。 たとえば、逮捕された少年の蛇のような弁護士が非情な選択を迫る場面や、娘が自ら命を絶つ悲劇的なエピソードも紋切り型や感傷に陥ることなく描かれています。 とりわけ重要なのは、本作が感情に訴えすぎたり、迎合したりすることなく社会問題を浮き彫りにしていることです。それが世代間トラウマや文化的疎外といった深刻な問題を語るための独自のアプローチとなっています。観客はまるで家族の一員になったかのように感じ、彼らの苦難を知り、彼らの勝利を共に祝うのです。これらによって「家族の歴史」が心に響くテーマとして立ち上がってくるのです。

銀鯱賞

銀鯱賞

燃比娃(ランビーワ) -炎の物語-

燃比娃(ランビーワ) -炎の物語-

原題:燃比娃 Ran Bi Wa

監督:ウェンユー・リー

選考理由

卓越した芸術性と深いテーマ性を備えた本作は、創設神話の枠を超えた「継承」と「変容」という根源的な問いを探求しています。それは人類の起源を語るだけでなく、「人間であるとはどういうことか」を強く問いかけています。 作品はこの道筋を「受け継がれるもの」と「断絶」として描き直します。人間の母親が子に渡すのは生物学的な血統ではなく、「ぬくもり」や「火」といった〈意志〉なのです。それは「人間になりつつあり、火に触れ、境界に立つ」という意味を持つ作品のタイトルにも込められているのです。こうしたアプローチにより古い物語は現代に更新され、予定調和であることを避けます。 作品の映像と技術において本作は圧倒的な完成度を持ちます。その芸術的で幻想的な要素は、卓越した格調を備えています。 巧みな筆致、紙の質感、刺繍や石のかけら、影絵といった多様な素材から観客は作品の触覚的質感を受け取るのです。人や動物の動きから雪の表現に至るまでアニメーション全体のクオリティは非常に素晴らしく、驚くべき多彩な技法が見事に成し遂げられています。 映画の構図は圧倒的で、どの場面も絵画のように美しく、熟考されたカットは機械的であることやありがちなことを避けます。また溶岩が現れるシーンまでは、意図的にグレーや黒を基調とすることでドラマ性と緊張感が高めています。ドラマによる緊張感を保ちつつ、かつユーモアを織り交ぜることで、観客は猿や犬、狼といったキャラクターに感情移入ができるのです。

赤鯱賞

赤鯱賞

ひゃくえむ。

ひゃくえむ。

原題:ひゃくえむ。

監督:岩井澤健治

選考理由

作品をご覧になったお客様の投票により決定いたしました。

総評

General Commentary

記念すべき第1回ANIAFFコンペティション部門は、選考員の確かな審美眼を示した幅広く豊かな芸術表現と物語を披露する場となりました。キュレーションされたラインナップは芸術性を重視しながらも、多くの観客に開かれた親しみやすさを備え、難解すぎることもありません。すべての作品が深い示唆に富み、既視感のある物語に陥ることのない強いオリジナリティを放っていました。 今年のコンペティション作品の特徴は、内省、家族の絆、文化的アイデンティティといった人間性のある普遍的なテーマが多く見られたことです。 貧困や鬱といった現実問題をメインストリームな表現で描いた『オリビアとゆれる心』のような作品がある一方で、より複雑な領域に踏み込む作品もありました。たとえば『エンドレスクッキー』ではカナダ先住民の問題が描かれ、『ニムエンダジュ』ではブラジル先住民が置かれた状況が示されました。これまであまり知られてこなかった社会問題にも光を当てることで、プログラム全体でクローバルな視点に取り組んでいます。 コンペティション作品は国際色豊かで、特定の地域に偏ることなく、世界各地から集められていました。アニメーション表現の多様性も際立っており、どの作品も重要なテーマに触れることで観る者の記憶に深く残りました。名古屋という地域でこの多彩な映画体験を共有できたことは大きな喜びです。上映中に伝わってきた観客の真っすぐな反応は、作品理解をさらに深めてくれました。 受賞作は鑑賞後もなお審査員の心に強く残り、深い感情の余韻を持っていました。アニメーション表現の可能性を最大限に生かし、新鮮で新しいビジュアルを提示し、同時に伝統的なアニメーション技法の普遍的な力強さと美しさを体現していました。 ANIAFFの第1回に関わることができたのは大きな名誉であり、今回のコンペティション作品によって示された高い品位と芸術的水準は、今後のANIAFFにとって確かな指標、そして礎となっていくと確信しています。